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エンジニア視点から見るDX推進で重要なこととは何か。

 デジタル・テクノロジーは、ロジスティクスの世界をどのように変えていくのだろうか。物流業界の課題である、レガシーシステムゆえのアナログな管理体制。ITの力を駆使し、企業がDXに舵を切るためにエンジニアは不可欠な存在になっている。
 しかしながら、急速に変化する世の中に合わせようと組織変革を急ぐあまり、DXの本質を理解しないまま形だけの導入になってしまっている企業も多いのではないだろうか。DXの推進はビジネスサイドだけで進められるものではなく、社内のエンジニアや外部開発チームと共に取り組んでいく必要がある。
 開発組織の立ち上げに必要なことや、社内にDXの必要性を伝えていくネゴシエーションなど、レガシーからの脱却は一朝一夕にはいかない。MOVO FORESIGHT 2020のセッション1では、組織におけるDXの推進を担い、形にしてきた企業のCTOが登壇し、DX推進に求められる開発組織のあり方についてディスカッションがされた。 アスクル株式会社 執行役員 CTO フューチャープラットフォームアーキテクチャの内山 陽介氏、株式会社Finatext Lead Developerの石橋 淳志氏、HacobuからはCTOの戸井田 裕貴が登壇し、エンジニア視点でDX推進のヒントとなる意見を交わした。

「2025年の崖」を乗り越えるために必要なこと

 そもそもDXとはクラウドサービスやIoT、AIなど最新のテクノロジーを活用し、社内のIT化による業務推進や効率化を図り、多様なニーズに応えるための顧客体験(CX)を提供するために必要な経営戦略の指針となるものである。変化の激しい市場でビジネス組織を変革し続け、競争に勝っていくためには、DXをいかに浸透させて新しいサービスや付加価値を顧客に提供できるかが鍵になってくるだろう。しかし、経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」によれば、2025年までに、既存のシステムを刷新し最先端のデジタルテクノロジーを取り入れる必要があるという。基幹系システムでは、多くの日本企業が採用しているSAP ERPのサポートが2025年に終了し、IT人材不足は約43万人に上るとまで言われている。既存システムやデータの見直しが迫られる中、ブラックボックス化した状況がDXの推進に歯止めをかける原因となり、多額の経済的損失を被る恐れがあるとレポートでは警鐘を鳴らしている(2025年の崖)。

株式会社Finatext Lead Developer石橋 淳志氏

「業界水準に合わせたインフラ作りを意識しており、日本では主流のERPシステムから、クラウドサービスやXaasをうまく活用することが大切」と語るのは石橋氏だ。金融業界というある種、保守的な産業でITによるデジタル化の遅れが懸念される市場において、「金融業界の産業構造を変革する」をミッションに掲げるフィンテック企業のエンジニアチームを束ねる同氏。
「DXを履き違えてしまい、単に自動化したいというだけでRPAを導入するといったことは、逆にレガシー化を進めてしまう原因になる。今、抱えている技術的負債は何なのか、どうしたら解決できるのかを考えて、全体最適の観点からシステムのアーキテクチャを見直していく必要があります」(石橋氏)

株式会社Hacobu CTO戸井田 裕貴 氏

エンジニアリングマネージャーやフルスタックでの開発経験など、様々なバックグラウンドを持つ戸井田は「アーキテクチャはスケーラビリティでなくてはならない」とした上で、ディベロッパーエクスペリエンス(開発体験)を意識した体制づくりが大切だと説明する。 
「Hacobuではモダンな技術を採用し、迅速な開発ができるよう努めている。フロントはreact、バックはGo言語を採用し、新しい技術を触りたいというエンジニアのニーズを汲んで技術選定をしています。また、日々変わり続ける顧客の要望やサービス改善などに柔軟に対応するため、アジャイル開発を取り入れ、ビジネスサイドとエンジニアサイドが一体となってプロダクト開発を進めることで、機能改善も迅速にかつサービスを止めることなく安全に行うことができます」

 アスクルのToC向けサービスのLOHACOの開発責任者、ロジスティクス・ビックデータのシステム責任者を歴任し、現職では組織の最適化や会社のテクノロ ジー化を推進する内山氏は「DXはエンジニアだけで推進するのではなく、社内全体で推進すべき」と述べ、ワンチームの大切さを説いた。
「アスクルでは『考える』『組み立てる』の部分は自社でやっていて、『作る』の部分は外注していました。しかし、あくまで我々がお客様としてのやりとりに留まってしまい、コントロールしにくい面や、コスト的に考えた際に内製化した方がコスト削減に繋がることから、自社でエンジニアを抱えて開発する組織体制にしました。そうすることで、『作る』『考える』『組み立てる』の首尾一貫としたサイクルができ、ワンチームとしての結束力が生まれる。『ITは経営を支えるものから経営そのもの』になっているので、いかに事業やシステムの領域を見定め、人的リソースを最大化させるかがDXの肝となる」

経営 × 技術の戦略について

アスクル株式会社 執行役員 CTO フューチャープラットフォームアーキテクチャ内山 陽介氏

 もはやITの力なくしては、ビジネスの成長はおろか、イノベーションを起こせないと言っても過言ではない。それだけ、組織内のDXがいかに経営戦略上重要であり、企業に求められていることだろう。「攻め」や「守り」のITとも言われる中、テクノロジーへの投資を積極的に行うことで、従来のレガシー体質をデジタルシフトさせることが大切だ。社内全体にDXの大切さを浸透させるためには「社内の共通認知を取ること」だと語る内山氏。 「組織内の情報の見える化はとても大切。slackなどの社内コミュニケーションツールなどでリアルタイムな情報共有をすること。縦割りから横串のコミュニケーションを意識し社内連携を強めることが、DXの理解を得るために行うべきことではないでしょうか。また、ボトムアップでIT部門の存在感を示していくだけではなく、トップからDXについてどう進言してもらうかも考えるべきです。言葉を変えれば、経営層にどうエンジニアの不可価値やDXの重要性を理解してもらうかです。このような働きかけをするためにも、地道なネゴシエーションは必要になってくるでしょう」

内山氏と呼応するように、石橋氏も組織内での情報共有の大切さに触れた。
「社内の情報に対して、適切にかつ容易にアクセスできる環境が大事。エンジニアしか知らない、ビジネスサイドだけしか知らない。これでは手戻りが発生し、アウトプットの質が高まりません。コンスタントに情報を出すことによって、技術的負債を洗い出し、より最適化して開発していけるようになる。結果として、プロダクトを良くすることができます。また、プロダクトもそうですが、組織全体で業務フローを見直して、どのようにすれば最適化が図れるかを考えることが大切です」

エンジニアが働きやすい環境を用意

 一方で、エンジニアにとっての働きやすい環境と、高速な開発を実現するための組織文化もなおざりにできない。デジタル・テクノロジーは目に見えない分、とかくITに知見のない非エンジニアでも分かりやすいものにだけ投資され、品質が疎かになることもよくあることだ。結果として、開発者体験が悪化し、エンジニアが離職してしまうことで、企業のデジタル化が阻害されてしまう。そんな中、企業はどのようにしてエンジニアである技術者の働きやすい環境を用意したりすればよいのだろうか。

 戸井田氏は働きやすい環境づくりについて意識していることを述べた。「技術的な例で言えば、共通コンポーネントを使った実装によってコード量を短縮し、工数削減に繋げる。また、仕事・プライベート問わず情報をできるだけオープンにすることを意識しています。過去のキャリアや仕事感はもちろん、家庭や趣味のこともオープンにすることで、良好な関係性を作るよう努めています。また、エンジニア自身が何のためにコーディングしているのかわからないとならないよう、『事業のどの部分を担っていて、作っているプロダクトが誰に届いているのか』を明確に伝えています。エンジニアが働きやすい環境づくりを進める上で大切なのは、他職種でプロジェクトを組むタスク型ダイバーシティや心理的安全性の担保、そして経営層から権限移譲してもらうこと。経営側は見守るくらいの気持ちで開発チームを構築するのがいいのではないでしょうか」

エンジニア採用で意識していること

 会場からは「エンジニア採用で一番訴求しているところや、何か工夫していることはあるか」という質問が出ていた。エンジニア不足が叫ばれる中、採用するにあたって心がけていることを、内山氏はこのように説明した。
「採用では技術力だけでなくアスクルの事業的価値やミッションに共感しているかを重視しています。そして、レガシーシステムをどう開発チーム主導で、DXを推進していくかというチャレンジングな環境で切磋琢磨できるということも伝えていますね。社内では、勉強会による技術の啓蒙やテックブログの運営、ハッカソンの開催など技術に触れてもらう機会を設けて、エンジニアとのコミュニケーションを大事にしています」

また、「そもそもDX人材が社内に一人も見当たらない場合はどうすればいいのか」という質問に対して、内山氏は「社内の非エンジニアをエンジニアとして育て、キャリアチェンジさせた事例もあります。今では戦力として現場で開発できるまでに成長しましたが、非エンジニアでもやる気があり、ちゃんと技術の勉強をする人、努力できる人はエンジニアに向いていると思います」と未経験からエンジニアへ育てていることについて話した。 DXを推進するために、エンジニア組織は不可欠だ。業務フロー上、どの部分を技術最適化すれば良いのか。今の業務プロセスはそもそも最適なのかを問い、自社に合った技術選定をすることが重要だろう。また、エンジニアが最大限のパフォーマンスを発揮できるような環境作りも、なおざりにしてはならない。

次回は、これからの時代にイノベーションを起こすために企業がするべきことについてのセッション内容をお送りする。

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