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自動車大手のトップはどう考える?資本主義社会の変容から考える物流革新

 前回に続き、MOVO FORESIGHT 2020のセッションの模様をお伝えしていく。カンファレンスの基調対談では、自動車業界を牽引してきたトップが登場し、これからのロジスティクスの潮流を紐解くセッションとなった。
 Hacobu代表の佐々木がファシリテーションのもと日野自動車株式会社 代表取締役社長兼CEOの下 義生氏、セイノーホールディングス株式会社 代表取締役社長 田口 義隆氏を招聘。業界トップにいるからこその視点で見据える将来像が浮かび上がってきた。
 冒頭では、佐々木がロジスティクス業界の大きな変革について幕末の明治維新に例えて説明した。「今までのロジスティクス業界は江戸時代の幕藩体制のようなものでした。しかし、デジタルテクノロジーの発展によって時代の流れが変わり、ロジスティクス業界の硬直化した社会システムは、時代の変化に対応できなくなっています。現在、この業界は明治維新級の変革の時を迎えていて、『ロジスティクス令和維新』と言っても過言ではないでしょう」
 前回でも触れたEコマース市場の急激な伸長によって、アナログ中心の運用管理を行ってきたロジスティクス業界は、深刻な人手不足や管理コスト増大に悩まされている。アナログから脱却しようにも、何から手をつけたらいいのかわからない。DXを推進しようにも経営トップが理解していなければ進まない。 時代の変化にアジャストし、100年に一度の物流革新を起こすヒントはどこにあるのだろうか。

利益は目の前のお客様、目線は未来を見据える

日野自動車株式会社代表取締役社長兼CEO 下 義生氏 (中央)

 日野自動車は今年78年目を迎えるトラック・バスの専業メーカーだ。「もっと、はたらくトラック・バス」のスローガンを掲げて社会の課題解決に取り組んでいる。
 「働き手の高齢化に伴うドライバー不足や、長時間労働などロジスティクス業界を取り巻く社会課題は多い。前提として住みやすい社会、快適に生活できる社会を創っていかなくてはならない」と説く下氏は、2019年に東京モーターショーで発表した「FlatFormer(フラットフォーマー)」について説明した。
 「21世紀はモビリティの概念が大きく変わるでしょう。テクノロジーの進化によって『暮らしの豊かさ』は多様になる一方、モビリティも豊かな暮らしを最適化するために、変幻自在である必要があります。『FlatFormer』はモビリティの未来を予見するコンセプトモデルですが、人やモノ、サービスなどあらゆるものがモビリティと結びつき、人間一人ひとりが豊かな暮らしを実現できる世の中にしていけるよう邁進していきます」
 日野自動車が考える未来のモビリティ社会は「SPACE」という言葉で表されるという。「Shared(移動・空間・時間の共有)」「Platform(多様なサービスに変幻自在に対応)」「Autonomous(運転からの解放)」「Connected(モビリティと人、物、街をつなぐ)」「Electric(効率と柔軟性を高める)」の5つに代表されるテクノロジー・サービス基盤を創造することで、豊かで住み良い持続可能な社会に貢献していく構想だ。
 社会と密接な関わりを持つ企業だからこそ、国連が定めるSDGs達成に向けた取り組みを行い、理念である「人、そして物の移動を支え、豊かで住みよい世界と未来に貢献する」ことの実現を目指していると言えよう。
 「ただ良い製品を作ればいいのではなく、お客様や社会にどう貢献していけばいいのか。データを個社ではなく、社会システム全体の中で活用し、これまでにない価値提供をするにはどうしたらいいのか深く考えることが非常に大事。短期的な視点で利益を追求するのではなく、これからの時代は中長期な視座を持って、その社会システムは本当に維持できるかどうかを常に念頭に置くこと。また、企業としての足場を固めるため、利益はお客様中心に考えつつも、目線は長く未来を見据えることです」
 また、日野自動車が定めた中長期経営戦略「Challenge2025」では、トラックによる重大事故を起こさない安全性やCO2排出量に関わる環境問題の解決、お客様ビジネスの持続的成長の支援、物流における効率化の実現など、4項目における価値提供を全社一丸となって取り組む方向性を示している。
 ワンチームで課題解決に向けてアクションするだけでなく、同じ想いに共感する企業とも手を繋ぎ、「仲間づくり」をしていくことで多くの社会課題を共に解決していく姿勢が大事だという。 下氏は「日本の人口が減少していくということは、労働力の減少にもつながる。個社が帝国主義的に独占し市場を席巻するのではなく、共創して一緒に課題解決していこうと呼びかけることが、今後の鍵となる」と語った。

ステークホルダー・キャピタリズムへの転換

セイノーホールディングス株式会社代表取締役社長 田口義隆氏

セイノーホールディングス株式会社 代表取締役社長の田口 義隆氏は「利益は継続性の担保であり、利益を生み続けないと持続可能な国家社会への貢献や企業の繁栄は実現できない」と前置きしつつ、目先の利益ではなくファンづくりの大切さを強調した。
 「我々は『輸送立国』を使命としているが、人生100年時代と言われる社会基盤や経済を、次世代へ引き継いでいくためには、企業のファンづくりが長いライフタイムで見ると重要になるでしょう。短期では利益に結びつかなくても、社会課題の解決へ真摯に取り組み、周囲を巻き込みながら先陣を切って行動すれば、中長期に見て大きな利益として返ってくる」
 こう述べた理由は、資本主義社会の変容にあるという。今年1月に開催された世界経済フォーラムの年次総会「ダボス会議」にて、ステークホルダー・キャピタリズム(資本主義)への転換の兆しが見えてきていると田口氏。 「今の資本主義社会は株主が作ってきたが、持続可能な世界を実現するためには株主だけでなく、お客様や従業員、取引先、パートナーなど関係各所までしっかりと還元すること。このような流れが世界経済のトレンドになってくるでしょう。既存の産業構造が一変する中、変化を迫られる大企業はDXの波に乗り、既存の枠に捉われないよう、トランスフォームしてリスクヘッジすることが大切になってきます」

「共創」は想いが一致しないと生まれない

会場からは、「ベンチャー企業に比べて大企業のほうが人数も多い、かつ人の質もよいと思う。それでもベンチャー企業と協業する理由はあるか。また、大企業に比べてベンチャーが優れていることはあるか」と言った質問に対して、下氏は「長年やってきた企業は過去の成功にどうしても捉われがちになり、変化を恐れる傾向がある」と前置きし、次のように答えた。
 「オープンイノベーションは『どういう社会貢献を一緒にしていくか』という想いが一致しないといけません。個社の利益や都合だけで共創は生まれず、むしろ不協和音を生んでしまう恐れもあります。我々はHacobuの想いに共感し、共に物流の未来を創ろうと考えた末に投資を決めたように、スタートアップやベンチャー企業だからとたかをくくるのではなく、みんなの力で課題解決していく気概を持つこと」

 テクノロジー企業の台頭により、時代を作ってきた産業が一瞬のうちに駆逐されるディスラプションが起こっている現代社会に、既存の固定概念や慣習をいつまでも引きずってしまえば、世の中のスピードにアジャストできず、社会最適できない企業へと失墜する可能性もあるだろう。
 オープンイノベーションの勘所はすなわち、共に社会課題を解決しようとするベクトルが一緒で、共創して取り組んでいけるか。利害関係よりも、「想い」が共通しているかが大切だ。過去の成功体験がネックとなって、DXの波に乗り遅れてしまえば、未曾有な世の中で生き残ることは難しくなるのかもしれない。しかし、DXという言葉だけが一人歩きし、実際どんな取り組みをして、社会変化にアジャストしていけばいいか掴めない企業も多いだろう。
 次のセッションでは、DXを企業に浸透させるエンジニアの視点から、どのような方法でITテクノロジーを経営の力に変えることができるかについて触れていく。

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