INTERVIEW
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Hacobu代表が語る。SCM全体最適化に必須な物流データプラットフォームとは

 Amazon(アマゾン)を筆頭とするEコマース企業の急成長により、インターネット通販でモノを買うことが当たり前となった今、ロジスティクス業界は大きな変革の時を迎えている。Eコマース市場の拡大に伴って物流量も増加の一途を辿り、さらに消費者のライフスタイルの変化は、配送時間帯の細かな指定など多様なニーズが求められるようになった。
日本でロジスティクス業界に従事する人口は約170万人と言われているが、増え続ける物流量に耐えうるだけの担い手が足りず、業界全体で人手不足が深刻な問題となっている。
 少子高齢化社会の到来による人口減少は否めない中、「これからのロジスティクスはどうあるべきなのか」を考える局面に差し掛かっていると言えよう。
物流情報プラットフォーム「MOVO(ムーボ)」を運営するHacobuは、デジタルテクノロジーによってロジスティクスをあるべき姿にするために、ロジスティクス業界のデジタル化を進める取り組みを行っている。
 一昨年、好評のうちに終了したロジスティクスイベント「MOVO FORESIGHT(ムーボ フォーサイト)」。今年は2月6日にベルサール御成門タワーにて「MOVO FORESIGHT 2020~デジタル・ロジスティクスをともに考える一日に~」を開催した。
 デジタル時代のロジスティクスにおけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進のアプローチを、各業界を代表するマネジメント層やプレイヤーを招き、参加者と共に考える「共創型カンファレンス」として実施し、550名超の物流業界関係者が集結した。

個社最適から全体最適へ

 冒頭では、Hacobu代表取締役社長CEOの佐々木太郎より開催に至った背景と、なぜデジタルがロジスティクスに必要なのかについて語った。Hacobuは「運ぶを最適化する」をミッションとして掲げ、物流現場の生産性向上やサプライチェーンを構成する事業者をプラットフォーム上でつなげるために、ソリューションを提供している。
 ロジスティクス業界では、SCM(サプライチェーンマネジメント)において「全体最適化が大事」だと言われて久しい。しかしながら、企業のサプライチェーンを取り巻く環境は複雑化し、個社の合理的な行動による最適化を図っても、サプライチェーン全体で見た場合は非合理的でバランスが取れず、全体最適化されない状況が起きている。
 「デジタルテクノロジーの進展がめざましい一方で、個社独自のレガシーシステムに縛られ、DXが進まない現状があります。『MOVO FORESIGHT 2020』では、業界のフロントランナーがどのようにDXを推進し、そして物流の将来像を捉えているのかを参加者全体で考えたい」と話す佐々木は、サプライチェーンの抱える個社とステークホルダー全体との相容れない状況を、経済学の言葉である「合成の誤謬(ごびゅう)」と表現した。
 「サプライチェーンの中では、荷主・3PL・運送など様々な事業者が関わっています。これをオーケストラに例えると、今の個社最適はシンバルの演奏者が目立ちたいからと、音をバンバンと鳴らすようなもの。ただ、これでは演奏自体が台無しになってしまいますよね。オーケストラは指揮者が先導することで各楽器の演奏者が協奏し、1つの音楽を作ります。サプライチェーンも同じで、関わる事業者全体が共創して全体最適化を図ることが求められる。合成の誤謬を解決するには指揮者が重要であり、指揮者の役割を果たすのが個社の枠を超えた物流ビックデータだと考えています」(佐々木、以下同)
 加えて、物流プラットフォーム上にアプリケーションを展開することでデータを蓄積し、サプライチェーンに関わる全ての企業が共通のデータを一元管理することで、効率化はもとより今まで見えてこなかった課題に気づくことができると説いた。
 「物流の現場ではこれまでアナログな方法であっても、モノが消費者の手元に届けられるまでの間に多くの苦労や工夫が重ねられてきました。これをテクノロジー駆使することで、荷待ち時の待機時間削減や入出庫業務の効率化、リアルタイムの動態管理などができるようになり、業務効率化に繋げることができます。アナログからデジタルへシフトしていき、可視化が進むことで、納品事業者が一定のエリアに集中している場合に共同配送を検討するなど、新たな施策を考えるきっかけにもなるでしょう」

物流を俯瞰できるデータプラットフォームの必要性

 個社だけのデータに留まらず、サプライチェーン全体を俯瞰できるデータプラットフォームを構築できれば、様々な分析に生かすことができる。また、データが多く集まるほどAI技術による精度が高まり、新たな物流の未来が見えてくるだろう。
 「我々Hacobuがデータを独占するのではなく、会社や業種の枠を超えて、物流ビックデータの蓄積や利活用するために『Sharing Logistics Platform®』構想の実現を目指します。物流業界が抱える社会課題を解決するには、サプライチェーン全体の最適化を図ること。オープンな物流情報プラットフォームとして、株主によるガバナンスやアドバイザリーボードの助言をもとに、物流業界の変革の旗振り役になっていければと思っています」
 Hacobuが考える物流情報プラットフォーム構築は、一筋縄ではいかない大掛かりなプロジェクトだ。平坦な道のりではないことを踏まえ、現在ではビジネスサイド30名、エンジニア30名の計60名体制で、Hacobuのサービスを喧々諤々しながら創っている。
 「MOVOユーザーの皆様のご意見を参考にし、これからもプロダクト開発に生かしていければと思っています。従来のような工程を定め、計画通りに開発を行うウォーターフォールではなく、変化が目まぐるしい世の中に臨機応変に対応できるよう、スクラム体制を敷いています。これによって、我々の社内だけでなくユーザーを巻き込んでのプロダクト開発を行うことができ、現場が求めている様々なニーズに柔軟に応えることができます」
 ユーザーを巻き込んだスクラム体制を整えることで、ユーザー拠点数が去年1年間で約4倍に拡大。MOVOによるバース管理では、トラックの待機時間削減や庫内生産性向上が見られ、MOVOの仕組みを導入することで効果を実感するユーザーも増えている。それによって、月間に扱う物流データは5万件から22万件と4倍強になっている。

 今後は、欧米諸外国の物流において、荷主や3PLを中心に主流となっているVisibility(ビジビリティ:物流の見える化)を強化し、新たなサービス展開に向け開発を進めている。まず、輸配送プロセスの始まりから終わりまでを、サプライチェーン上の異なる企業のユーザーが、同一の配送案件データへアクセス可能にする「 MOVO Vista」を今夏までにリリース予定だ。さらに、流通資材の「滞留」と「紛失」を見える化し、スムーズな回収業務を行うために位置情報データを使ってモニタリングする「MOVO Seek」は今年4月にローンチする。
 「物流データを活用し、サプライチェーンに関わる企業の『情報の分断』をなくす取り組みを行う」と抱負を語った佐々木。本カンファレンスのテーマである「デジタル・ロジスティクスをともに考える一日に」の冒頭から、物流のデジタル活用の最前線について考える機会となった。

以後、5回に渡ってMOVO FORESIGHT 2020のセッションの様子をお伝えしていく。

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