COLUMN
更新日:
執筆者:川崎俊哉

BtoC物流の今後の行方とEC物流の本質

8月17日に日本経済新聞が上梓した記事が話題を呼んでいます。

『「3強の時代が終わるのもそう遠くない」。宅配大手のある幹部は自社物流を強化するアマゾンの動きに警戒感を募らせる。』(宅配、広がる「ウーバー流」 隙間時間に運転手副業:日本経済新聞

本稿では、この記事が明らかにしようとしたBtoC物流の今後の行方と、荷主であるEC側から見た物流の本質について、考えてみたいと思います。

ECにおける物流の位置づけ

ECにおいて、物流は欠くことのできない重要なパーツです。

従来型のチェーンストアオペレーションにおける物流の要諦は、「工場ないし倉庫」から「店舗」までの商品の移動をマネジメントすることでした。ECにおいては、これが、「物流センター」から「消費者」までの商品の流れをマネジメントすることに置き換わります。

つまり、従来型の「卸売業」と「宅配便事業者」の役割を同時に担うことが、EC事業者に求められることとなります。

とはいえ、EC事業者にとっては、物流は本来「コア領域」ではありません。自社でEC物流に必要なすべてのプロセスを担うだけのヒト・モノ・カネ・情報のリソースを割くことはなかなかできません。このため、倉庫領域においては「EC物流を担う3PL事業者」が、配送領域においては「宅配便事業者」が、従来の卸売業に代わって、ECの物流を支えることとなりました。

しかし、その点をあらかじめ見通したうえで、最初から物流領域にハンズオンし、フルコミットしてきたのがAmazonや中国の京東商城(JD.com)といえます。一方、先にECサイトでの圧倒的な流通総額=影響力を握ったのちに、物流領域においても、「情報システム」の観点からデファクトスタンダードを握ろうとしているのが、Alibabaといえるでしょう。

これら、ECの覇者たち以外の多くの専門EC事業者にとっては、物流を自ら担うことは事業規模からして困難です。このため、従来型の「3PL事業者+宅配便事業者」の組み合わせを使ってアウトソースし、自らは、「売上高物流費」の低減を目指してビジネスを拡大することに注力することになります。

こうしてみると、EC事業者にとっての物流の位置づけは、以下の4グループに大別できます。

  1. 倉庫も配送もアウトソース:中小の専門EC事業者
  2. 倉庫は自営で配送はアウトソース:大規模な専門EC事業者(例:ユニクロ、ニトリ、ZOZO)
  3. 自営を倉庫から配送に広げる:直販の覇者(例:Amazon、京東、ヨドバシ、ロハコ)
  4. 倉庫と配送のプラットフォーム化を指向:モールの覇者(例:Alibaba、楽天)

日本のEC物流領域においては、いわゆる「宅配クライシス」と呼ばれる労働人口減少による担い手の不足が先行したため、C)のAmazonやD)の楽天は、やむなく、配送領域においても自営化に着手をし始めていますが、これらの動きは、「商品を運べなくなる懸念」を前にしてやむを得ず着手したものと考えられます。日経新聞の記事で取り上げられた「アマゾンフレックス」もこの一環です。その証左として、彼らが構築している配送網は、既存の宅配便事業者の競合となり業界の寡占構造をひっくり返すほどの影響力は、現時点においては持ち合わせていません。一方、中国の京東やAlibabaにおいては、欧米におけるFedExやDHL、日本におけるヤマト、佐川、日本郵便のような強力な既存プレイヤーが存在しなかったことを背景に、彼らEC事業者が一気に、宅配の領域においてもイニシアチブを取るに至った、というように映ります。

このようなECにおける物流の位置づけを概観してみますと、「物流プラットフォーム」の構築は、単一のECサイトの物量だけで実現できるものではありません。覇者Amazonですら、ヤマトの宅配個数の1/4程度の物量しか有していません。2次元の面を埋めなければいけない配送領域も含んだ「EC物流プラットフォーム」を目指すのであれば、例えば、Amazon以外のすべてのECサイトの物量を結集した共同配送網を実現する、といったレベルの大きなスケールの構想が不可欠のように思えます。

BtoBとBtoC物流の違い

ECにおける物流はBtoC(ラストワンマイル)物流と呼ばれるものですが、BtoB(企業間)物流との違いという観点から、深堀りして考えてみましょう。

まず倉庫領域について。BtoBとBtoCでは、要求されるサービスレベルはBtoCの方が高くなります。

一つ目は、稼働日の問題。BtoBであれば、日曜祝日は非稼働、土曜は平日の50%の出力での稼働、としてもサービスレベルを大きく毀損することはありません。一方、BtoCにおいては、365日稼働は前提となってきます。結果、倉庫の人員差配に大きな影響が及びます。平日稼働中心であれば、管理者もスタッフも「平日出勤、土日休み」を中心に組み立てることが可能です。ところが、365日稼働が前提となると、シフト体制を構築することが不可避となります。この点が、労働生産性を向上させる点で大きな足かせとなります。

二つ目は成果物の品質レベル。BtoC向けはBtoB向けとは梱包に求められるサービスレベルがけた違いに高まります。BtoC向けの梱包品質を保つためには、作業者の教育がより重要となります。

では、配送領域はどうでしょうか。配送の場合は、配達するエリアと時間帯の観点で、BtoC配送のハードルは一気に高まります。BtoBと比べて、配達しなければならない届け先は分散します。また、倉庫と同様、土日・夜間が配達に占める割合が高まるため、こちらも倉庫領域と同様に365日稼働による生産性の低下が起こります。

これらを踏まえますと、BtoCの配達においては、配達密度=物量、が非常に重要な意味を持ってきます。結局のところ、EC通販1サイトではまったく物量が足らない、という前述の問題に再び直面することとなります。物量が生産性に与える影響は、倉庫領域以上に配送領域において、重要な意味を持ちます。倉庫領域では、拠点の面積が巨大になりすぎると、かえってオペレーション効率を悪くする、ということも起きえます。しかし、配送領域においては、とにかく、物量は多ければ多いに越したことはありません。(インフラ拡充のスピードを超えない限りにおいては。)

このようなBtoBとBtoCの物流における違いを踏まえると、Amazonや京東のように、BtoCの物流インフラを構築した後で、BtoBの物量を増やしていくのであれば、全体のサービスレベルはむしろ簡易となるため、効率は落ちません。この場合には、BとCが統合された、不可分の物流インフラが構築されます。ヤマト運輸の宅急便インフラは、まさにこのように作り上げられてきました。

しかし、BtoBの物流インフラを前提としたうえで、BtoCの物量を付加する場合には、インフラ全体の運営効率は確実に悪化します。もし、この二つの「モノの流れ」を不可分で運営するならば、既存の「B事業」のビジネス構造自体を「C事業の構造に脱皮」させることが不可避である、と言えるでしょう。しかし、それは極めて難しいチャレンジとなります。

EC物流の発展の行方

ECを物販の商いととらえた場合には、EC物流は、事業規模が大きくなるにつれて、一般的に、以下の段階を経ていくものと整理することができます。

  1. 物流事業者にアウトソースをする
  2. 倉庫領域は自社で担い、配送領域は宅配事業者に依存する
  3. 倉庫領域を他者にも提供する
  4. 配送領域を自社で担い始める
  5. 配送領域も他者に提供する
  6. 既存の物流事業者の競合となり、彼らを駆逐する

しかしながら、現在の小売市場におけるEC化率は、中国で20%、アメリカで12%、日本に至っては8%程度といわれています。

これらを考えますと、3)や4)のフェーズから、5)6)のフェーズに移ることの困難さに思い至ります。自社で物流を担うこと自体は、時間をかけたたゆまぬ努力やナレッジの蓄積は必要であっても、不可能なことではありません。(ヨドバシ.comは、20年前から、愚直にこの方針を貫き続けています。) しかし、これを第三者にも提供しプラットフォームになる、といった瞬間に、オペレーションの難易度は一気に高くなります。

中国ではAlibabaや京東という覇者・巨人が、未来を見越して、5)や6)を見据えたアクションをとり始めています。

一方、Amazonは、徹頭徹尾、ユーザーの利便性と自社の収益のみを目的とし、そのために、5)や6)が有効であれば着手をするように思われます。しかし、Amazonは、他社のサービスレベルに自社の物流を合わせることは決して行いません。Amazonの物流プラットフォームは、あくまで、Amazonの顧客とAmazon自身の収益のためにあり、「他者に合わせる」という視点は希薄であるように思われます。一方、Alibaba、京東の中国勢には、自分たちが「中国における新たな物流インフラになる」という意図を有しているように感じられます。

ECの物流は、ECの商いを行うにあたって不可欠な一パーツ(=機能)に過ぎないのか、それとも、一企業の枠を超えて、人々の生活に不可欠な流通インフラとして、国の流通戦略にも影響を与える論点となるのか。その担い手が誰になろうとも、EC物流の影響力が、今後一層増大していくことだけは、疑いようはないものと思われます。

著者プロフィール / 川崎俊哉

小売業やファッションアパレルの物流事業に携わり、企画・設計から営業・オペレーションまで、広範な業務を経験。現在は通販の物流子会社の経営管理に従事。企画から現場までの幅広い経験と知識を生かし、事業運営観点でのロジスティクスの価値向上を目指している。

この記事が気に入ったら
「いいね」しよう!

RELATION

TAG

トラックGメンに関するWhite Paper

SEARCH