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執筆者:川崎俊哉

Amazonに対抗する国内EC物流戦略

ECは、平成の30年の間に、欠くことのできない流通インフラとして大きく成長してきたということが言えます。その成長の中心であり続けてきたのが、Amazonです。

では、ECの土台を支える物流領域において、ECサイト各社はどのような戦略を取っているのか、また、リーディングカンパニーであるAmazonに対抗するとしたら、どのような差別化がありうるのか、という点について、考察を試みてみましょう。

Amazonの強さの源泉

Amazonの強さは何といっても、その品揃えでしょう。ECサイトにおいて、Amazonほど「欲しいものが見つかる」サイトはほかにありません。一方、モール型ECの雄である楽天では、Amazonでは見つからないような出店店舗独自の商品が存在します。あくまで「消費者が欲しい商品」に焦点を絞っているAmazonに対して、楽天は、「おもしろいお店を見つけてそこで商品を買う楽しみ」というニーズをくみ取っています。

ところが、物流領域において、この焦点の違いが、大きな競争優位性の差を生んでいます。Amazonにおいては、商品を動かすプロセスは、常にAmazonの決めたフォーマット(仕様)に則っています。一方、楽天の場合には、出店店舗が独自に物流を担っているため、フォーマットを統一することは大変な苦労を伴います。

Amazonで商品を買えば、物流のサービスレベルは、変わらないのに対して、楽天で商品を買うときは、どうしても、店舗によってサービスレベルや価格(配送料)の違いが出てきてしまいます。オペレーションの主体者が一つなのか、それとも、出店店舗によってばらばらなのか、という点が物流サービスの違いに大きな影響をもたらしています。

つまり、「品揃え」×「物流サービス」を掛け合わせたところに、Amazonの真の強さの源泉がある、ということができるでしょう。

ECにおける倉庫(物流センター)と配送(デリバリー)の違い

では、もう少し具体的に、ECの物流オペレーションの要点を考えてみましょう。

ECの物流オペレーションは、大きく、倉庫(物流センター)と配送(デリバリー)という二つの領域に大別できます。これら二つの領域は、物流戦略を考える上で、どういう点に特徴や違いがあるでしょうか。

倉庫領域の要点は、地代家賃と作業生産性、この2点に収斂されます。

ECの競争優位性の要点が「品揃え」であることは先に述べました。しかし、「品揃え」を追求していけば、倉庫の面積はいくらあっても足りません。また、倉庫が巨大化すればするほど、倉庫の中で商品を動かす距離もどんどん長くなっていきます。

そこで、重要となってくるのが、どうやって売れるもの(=回転の速いもの)だけを在庫し、売れないもの(=回転の遅いもの)を倉庫に置かないようにするか、という点になります。いわば、コンビニエンスストアの棚をめぐる商品同士の競争と同じような原理が、ここにも働いています。

この点で、Amazonには、「競争優位を保てる仕組み」が備わっています。Amazonは、特定の店舗や仕入先との関係を「忖度」しません。ただただ、自分たちの物流オペレーションが最適化されるような商品の動かし方にフォーカスすることができます。

つまり、倉庫の空間を占有する「売れないもの」と「多すぎる量の在庫」は、徹底して倉庫の外に追い出して、「回転するもの」だけをなるべく倉庫の中に置いておく、ということを追求することができます。これは、どうしても仕入先や店舗の事情をある程度くみ取らなくてはいけない、他のECサイト、特にモール型のECサイトがなかなか真似しようとしてもできない、「隠れた」物流戦略上の優位性といえるでしょう。

一方で、昨今、メディアでは様々な「物流機器」が、「最新テクノロジー」の象徴として取り上げられることが増えています。いわゆる、AGV(Automatic Guided Vehicle)といわれるもので、「自動で動く棚」であったり、「立体自動倉庫」であったりがその代表例です。

大手ECサイト各社は、これらの最新テクノロジーの導入を競っているようにも見えます。確かに、人の作業を代替する機械の導入は、確実に作業生産性を上げますし、人手不足が深刻の度合いを強める今後のわが国の雇用環境においては、「機械化の促進」は、必要不可欠な打ち手といえます。

しかし、これらは資本さえあれば、誰でも導入することができます。とすると、機械化の促進がECサイト独自の競争優位性に直結するか、という問いには疑問符がつくようにも思われます。ECサイト各社が、同じような機械を導入すれば、生み出される生産性も同じように、機械の設計能力に近づいていきます。「倉庫の機械化」というのは、コモディティ化してゆく領域であるのかもしれません。

さて、では、配送領域についてはどうでしょうか。配送の作業は、倉庫と比べると、はるかに「予期せぬ」要因が強く生産性に影響を及ぼします。

今日、どれだけ配達の荷物があるのかは、配達を担うドライバーにはコントロールができません。倉庫作業であれば、予想物量に対して、揃える作業員の数を調整して、作業量の波動に対応をしようとします。しかし、配送のドライバーを、日々の物量に応じて揃えることは、倉庫作業よりはるかに高い難易度が要求されます。また、雨が降るだけで、ドライバーの生産性は10%程度悪化する、ということが言われています。たまたま配達に都合の良いところに駐車スペースが空いているかどうか。それだけで、配達の生産性が大きく変わります。そして、不在。荷受人が在宅しているかいないか。宅配ボックスが空いているかいないか。配達に行ってみるまで、わかりません。

「荷物を効率よく配達できるかどうか」は、かなりの部分、街や荷受人の状態や荷物の落とし場所(配達先の住所)と量が効率的であるかどうか、によって左右されてしまいます。

このように「受け身」の要素が強い領域において、確実に生産性を上げることのできるほとんど唯一の手法が、宅配便業界でよく使われる「密度」という概念、すなわち、「一定面積における荷物の量」を増やすこと、となります。ビジネスにおいては、「売上がすべてを癒す」という言葉がありますが、宅配便業界においては、「密度がすべてを癒す」ということが言えるでしょう。

では、このような倉庫領域と配送領域の特質の違いは、ECサイト各社の物流戦略において、どのような違いを生み出しているでしょうか。

国内ECサイト各社の物流戦略

Amazon(延床面積222,799坪)

Amazonは、2019年5月現在、16の物流拠点を有しています。これらの物流拠点においては、エリア軸と商品軸の2軸で、どのような商品を、どのくらいの量、どの拠点に在庫するかをコントロールしています。Amazonが先鞭をつけた、商品を届けるまでのスピード競争は、機械化の進展などもあり、ECサイト各社で大きな差はなくなってきています。一方で、巨大な物流拠点網を有するAmazonにおいては、注文が複数拠点の在庫に引きあたったとしても、物流コストを最適化するような、在庫のバランス調整や出荷荷物の拠点間輸送、といったネットワークの視点での取り組みがより重要性を増しているものと考えられます。

倉庫作業の機械化においても、Amazonはトップランナーであり続けてきましたが、昨今、巨額の機械投資は抑制し、スタッフの時給単価を上げて、良質な作業者を労働市場から囲い込む方向性に揺り戻しが来ている、という話も喧伝されています。

また、いわゆる「宅配クライシス」を経て、自前の配送網整備にも着手をしており、デリバリープロバイダー*1とよばれる地場の中小宅配業者に、大手宅配業者に代わって、配達業務を委託する取り組みを進めています。

Amazonによる自社配送網の整備は、あくまで、Amazonが出荷する荷物の配送プロセス全体において、一部荷物の配送能力を自らも確保し、大手配送事業者の依存度を下げる取り組みといえます。しかし、ECの王者Amazonといえども、大手配送事業者を凌駕するほどの「密度」は有しておらず、AWSのように、ECのために整備したインフラを外部に開放することで新たな収益元とするものとは、少し性質が異なる戦略と思われます。

いずれにせよ、Amazonにとっての物流戦略の要諦は、テクノロジーありきでも人ありきでもなく、その時々の経営環境において、「最も効率的なオペレーション」を永遠に求め続けることであるといえるでしょう。

*1:2019年5月現在、TMG、SBS即配サポート、札幌通運、丸和運輸機関、若葉ネットワーク、ギオンデリバリーサービス、ヒップスタイル、遠州トラック、ロジネットジャパン西日本、の9社

楽天(延床面積93,624坪)

既存の市川と川西の物流拠点に加え、流山と枚方に新たに2拠点を開設し4拠点体制となることを2018年7月に発表しています。また、配送領域においても、「Rakuten-EXPRESS」の名称で自社配送を拡大していくことを宣言しています。店舗向けの倉庫サービス(楽天スーパーロジスティクス)と合わせて、「ワンデリバリー構想」を大々的に発表し、改めて物流の強化を推し進めることを力強く宣言しています。

楽天の流通総額は、トラベル等のサービスを含めると3兆円を超えていますが、物流のベースカーゴとなっているのは、楽天ブックス、爽快ドラッグ、ケンコーコム、楽天24、楽天ブランドアベニュー(旧スタイライフ)など、楽天の直販系サイトが中心となります。直販系が中心であってもこれだけの拠点を必要とする、ということが楽天の影響力の大きさを示しています。一方で、2014年に拠点網の縮小に転じたという経緯もあり、「宅配クライシス」など、その時々の状況に応じて、進むべき舵を切り替えている、という印象も否めません。総合ECサイトでモール型、という物流戦略上は大きなハンディを負った状態で、直販系サイトの物量をベースカーゴとする勝負をどこまで押し進めることができるかが試金石となりそうです。

ヨドバシ.com(延床面積116,453坪)

直販型のECサイトで、Amazonを追撃する一番手はヨドバシ.comといえます。ECへの取り組みにおいては30年近くの歴史があり、2018年には、売上高で1,000億円を突破、ヨドバシカメラ全体における売上構成比も15%を超えています。

ヨドバシ.comの物流戦略は、「自前主義」が特徴といえます。倉庫は、2005年にいすゞ自動車工場跡地の一部を購入して開設した川崎のアッセンブリーセンターが基幹拠点となります。倉庫のみならず、配送においても自前主義を貫いており、関東圏で12の配送デポを有し、配送ドライバーも直接雇用を中心としています。「自社で仕入れ、自社で販売しているものを、自社で配送する」というシンプルな思想が貫かれており、宅配クライシスといった環境変化にもぶれることなく、自らがコントロールできる範疇において、着実に、「品揃え」の拡張を続けています。配送においても「自前主義」が成り立つ背景には、「家電」という高単価商品を中心に扱っていることも大きく寄与しているものと考えられます。

ZOZO(延床面積130,295坪)

専門ECサイトとしては、国内最大級の流通総額(2018年3月期で2,705億)を誇るZOZOは、習志野(2拠点)、千葉ニュータウン、つくば(3拠点)、の6拠点を有しています。倉庫領域においては創立当初より自前主義をとっていますが、配送領域においては一貫して大手配送事業者への委託を続けています。

ファッション専門という商材の特性上、比較的受注単価も高く、直接商品を仕入れて販売するのではなく、ブランドから販売と物流を受託し、そのマージンとして受託販売手数料を得る、という契約形態をとっています。(実店舗における百貨店とブランドの関係性と相似しています。)このため、一般の小売業やEC事業者と異なり、高い営業利益率を確保することができています。また、倉庫拠点についても、東西に分散するのではなく、本拠地の千葉県内に集約していることから、配送スピードについてはそこまで重視をしなくてよい、という商品ジャンル上の特性があると考えられます。

これらを踏まえますと、ZOZOは、競争優位性の源泉である倉庫業務においては自前主義を貫きますが、配送領域は優位性を発揮できる領域ではなく、自社化というリスクをとって得られる果実も小さいため、従来通り、大手キャリアへの委託を中心とした配送戦略を取り続けるものと推定されます。

LOHACO(アスクル/ヤフー)

LOHACOは、オフィス用品通販のアスクルがヤフーの資本を受入れて2012年よりサービスを展開しています。倉庫拠点は、日高と吹田の2拠点、吹田については、法人向けのアスクルと共用での運営を行っています。もともと、オフィス用品通販で培った物流オペレーションのノウハウを有しており、オペレーションの安定性には定評があります。配送については、大手配送事業者への依存度は高かったものの、宅配クライシスを踏まえて、Happy on timeという独自の配送サービスをリリースするなど、自前主義へと舵を切っています。

LOHACOの物流戦略における要点は、ECビジネス自体の収益性にあるでしょう。他のECサイトと異なり、LOHACOはサービス開始以降、一度も黒字化を達成していません。低単価で購入回数が多い日用品という、ECとの親和性が低い商品群からスタートしていることで、物流オペレーション上の優位性を事業収益に反映しきれていない、ということが言えそうです。ECサイトとしての収益性に見通しが立てば、物流オペレーションの安定性が事業の成長を下支えすることができるでしょう。

Amazonに対抗するには

さて、では、各ECサイトの現状を踏まえて、巨人Amazonに対抗する物流戦略にはどのようなものが考えられるでしょうか。ここでは、倉庫領域と配送領域、専門ECサイトと総合ECサイト、の2軸で考えてみたいと思います。

倉庫領域においては、商品ジャンルがばらばらであると、オペレーションの生産性は著しく低下します。同じような商品を同じ仕様で作業することができれば、効率化は図りやすくなります。その点で、専門ECサイトは、商品の取り扱い方を熟知している利点を生かして自前でオペレーションすることが、効率的な倉庫オペレーションの実現にむけた近道となります。(餅は餅屋、アパレル商材の取り扱い方は、アパレル業界の人間が一番よくわかっています。)一方、総合ECサイトを指向する場合には、商品ジャンルごとに在庫拠点を上手に使い分けることが必要となります。物流戦略においては、拠点ネットワークの考え方を整理することと在庫量のコントロールが、倉庫オペレーションの高度化・機械化以上に、重要な意味を持つことになるでしょう。

配送領域においては、取り扱うモノは「ダンボールで梱包された箱」に標準化されています。このため、「自分たちだけの荷物」を取り扱うことによる競争優位性はほとんど生じません。Amazonは、国内のECサイトのだれもが持ちえない大量のベースカーゴに基づき、自社配送網の組織化に踏み出してはいますが、それでも、大手配送事業者が有する物量に伍することはできません。Amazonですらそうですから、それ以外のECサイトが独自で大手キャリアに匹敵する配送インフラを構築するのは、非常に困難な道のりであるといえるでしょう。

昨今、楽天、LOHACO、などが、次々と自社配送網の構築に舵を切っておりますが、上記の点を踏まえますと、配送自社化戦略の先行きには一抹の懸念が生じます。おりしも、一時総量規制と称して荷物の引き受けを抑制してきたヤマトが、ここにきて再度、荷物の獲得に舵を切ったという報道もあります。一方、ヨドバシ.comは、一貫した思想に基づき自前配送を貫き通してはいますが、商品ジャンルを広げて低単価商品が増えてきた場合には、配送コストがじわりと収益性を圧迫する可能性があります。

各社の思惑や事情はそれぞれあるものの、「効率化」を原理原則に置くならば、配送領域においては、「Amazonに対抗するEC業界共通の配送インフラを構築する」という方向性が、最も合理的な物流戦略になる、ということが言えるかもしれません。

まとめ

Amazonの物流戦略の強さは、物流オペレーションそのもの効率性のみならず、一段上位にある、「オペレーション効率を優先できる」事業構造と経営思想にあります。一方、倉庫領域と配送領域では、効率化の要点が異なります。同じような商品を同じ仕様で取り扱うことが要諦の倉庫領域と仕様は統一されていて物量(=密度)がとにかくものを言う配送領域。

この原理原則を踏まえて、各社のECサイトがどのような事業構造で成り立っていて、どのような商品を取り扱っているのかが、物流戦略そのものの有効性や今後の方向性をも規定している、ということが言えそうです。

著者プロフィール / 川崎俊哉

小売業やファッションアパレルの物流事業に携わり、企画・設計から営業・オペレーションまで、広範な業務を経験。現在は通販の物流子会社の経営管理に従事。企画から現場までの幅広い経験と知識を生かし、事業運営観点でのロジスティクスの価値向上を目指している。

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