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執筆者:坂田 優

Afterコロナ コロナショックが変える荷主と物流事業者の関係性

コロナショックが引き起こすサプライチェーンの変化は、これまでの荷主と物流事業者の関係性を一変させる可能性がある。

新型コロナウイルスとの闘いは長期戦

日本において緊急事態宣言が発出されて10日あまり、検査の実施対象が比較的重症者に絞られている中でも、未だに感染者数の増加は止まりそうにない。3月末から4月初めにかけての年度末を挟んだ歓送迎会シーズンに、一定数の「夜の街クラスター」が発生していたことに起因するのでは、という見方もある。ただ、感染者がある程度増えてきた段階で強い対策を実施しても、無症状者からの感染や潜伏期間のことを考えると、その後一定期間は増え続ける、というのが海外の事例を見ても実際のところのようである。

また、全世界で沈静化しない限りは、海外から国内に来る人がゼロではないことを考えると、第3波、第4波・・が起こる可能性をはらんでいることも事実だ。そう考えた時に、新型コロナウイルスとの付き合い方を短期的なものと想定するのは間違っているように思える。なんとか緊急事態宣言の期間を頑張って乗り切ろう、というような風潮が強く、短期的かつ表層的な話に目が行きがちなのは致し方ない部分もあるが、中長期的な目線で見ていくべきではないだろうか。

新型コロナウイルスに対しての対策や社会の在り方に思考を巡らせる上では、少なくとも3つの時間軸で考える必要があるだろう。

①緊急事態宣言期間など足元の数週間の話
②ワクチンや治療薬が確立されるまでの半年~1年間
③そして、それが社会的にきちんと広まっていく2年ないし3年程度、またはそれ以降

②をWithコロナ、③をAfterコロナと捉え、次の世界を見据えながら、物流業界の変化を想像してみたい。

※インフルエンザ同様、コロナと共に生きていく必要がある、という意味合いで、③についても「Withコロナ」と称される場合もある。

感染症がもたらす社会的な構造変化

これまでも人類は感染症との闘いを繰り広げてきたが、それは文明の転換点にもなっていた。1340年代に始まるペスト(黒死病)の流行とその後の社会構造の変化は良い例だ。

当時のヨーロッパの封建社会では、封建領主が土地を所有し、農民から年貢を取り立てるという構造が成り立っていた。しかし、ペストで多くの農民が死亡したことによる労働力不足から、農民に賃金が支払われ、農民が相対的に力をつけるという結果につながった。その他にも、キリスト教会の権威失墜や、人材不足の中で既存の制度の中では登用されることのなかった人材の活躍が、新たな社会に向かうきっかけとなった。

半世紀にわたるペスト流行の後、ヨーロッパはイタリアを中心にルネサンスを迎え、文化的復興を遂げる。中世が終焉を迎え、近代を迎えたヨーロッパはペスト以前と以降を比較すれば、まったく異なった社会へと変貌した。

これからの荷主と物流事業者の関係性

現代日本においても、ペスト流行後のヨーロッパと同じような、異なる社会への変化が起こると考える。そのうちの一つが、平成の時代にまったく変わることのできなかった昭和的な経営・働き方であり、FAX・紙帳票・ハンコといったアナログツールである。
また、近代を迎えたヨーロッパでは、やがて新大陸やアフリカへの進出を果たしていくことになるが、それ以来進んできた、グローバルに広がったサプライチェーンの見直しも起こるかもしれない。(参照記事:https://movochannel.movo.co.jp/movowp/column/631.html

そして、封建社会における領主と農民の関係性のように、荷主と物流事業者の関係性もこれから変わっていくのではないか。

これまで物流事業者は単一業界の荷主との結びつきが強く、同じトラックで違う業界の貨物を運ぶことに対する物理的ないし感情的なハードルがあった。また、物流事業者は無料のサービスとして荷主に対して付加価値を提供することもあったりと、ある意味で「年貢」を取り立てられるような関係性だった。そこに、ホワイト物流といった動きが加わり、待機時間分の負担をする、という妥当な「賃金」が支払われるようになった(まだ実現していない、というご指摘もあるので、少なくともそのような社会的要請がなされた、とする)。

Withコロナの期間では、サプライチェーンの見直しが入ると同時に、物の動きが量的にも業界ごとに変わってくることが想定される。需要が大きく減少する業界もあることを考えると、これまでの「単一業界荷主」主義では物流事業者として事業の継続が難しくなるケースも増え、「マルチ業界荷主」主義に考え方を変えていく必要がありそうだ。

つまり、Afterコロナ時代には、これまでより多くの荷主とオープンな関係性を築いていかないと、物流事業者としても生き残れないということではないだろうか。これまではトラックのボディ形状など物理的な制約も多かったが、日野自動車が掲げる「フラットフォーマー」は、ボディを簡単に脱着でき、またボディ形状の自由度を高めることで多様なサービスに対応できるようにするというモビリティコンセプトであり、まさに「マルチ業界荷主」主義を実現するために欠かせないものになるだろう。

また、それを実現するためにはハード面だけでなく、ソフト面での革新も必要だ。物流事業者がデジタルな形で多くの荷主とつながり、配送に関わる情報が一度のインプットで自在にやり取りされる仕組みが求められるようになる。Hacobuでは「MOVO Vista」(参照:https://movo.co.jp/movo-vista)というアプリケーションを通して、そのような世界を創っていきたいと考えている。

著者プロフィール / 坂田 優

Hacobu取締役COO。野村證券にて、債券・デリバティブ商品を中心に金融法人向けの営業を担当後、財務部門にて債券の発行等による資金調達業務やキャッシュマネジメントシステムの導入プロジェクトに従事。その後、A.T.カーニーでは、東京オフィス及びロンドンオフィスにて、主に通信・メディア・テクノロジー、金融領域における事業戦略策定、業務改革プロジェクト等に参画。

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