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執筆者:白川久美

ロジスティクス の現場から見たAmazonの本当の「凄さ」

「インターネットでものを買う」ことに、ほとんどの人が慣れていなかった時代から、いかにAmazonが成長し、「ロジスティクス」に革新的な変化を起こし続けているか。2003年にAmazon Japanの物流責任者として現場に携わり、肌で感じたAmazonの「凄さ」をお伝えします。

物流の考えを変えたAmazon

2003年、私がAmazonの物流責任者として着任した時、社員は20人足らず。物流センターで働く庫内作業者は大手物流事業者を通して募集、運営していました。Amazonは、「本をネットで売っている会社」といったレベルの認知度で、優秀な人を集めるのは難しい時代でした。他の企業にとっても「物流」は単なるコストという意識しかなく、配送業者に「コストを下げて」と上からプレッシャーをかけるという交渉がほとんどです。

そんな時代にAmazonは、SCM(サプライチェーンマネジメント)チームで、自社の物流センターを徹底的にコントロールしていました。SCMチームは、膨大なデータやアルゴリズムを駆使し、その日の入荷量、出荷量を予測します。その頃のAmazonは、出荷量は一日2万件ほどでしたが、出荷量は、日々右肩上がりで日々出荷数が伸びている状況。その中で予測と実績の誤差が「プラスマイナス5ポイント」であることが重要なKPIでした。この厳しいKPIを達成するために、社員一丸となって、商品を迅速に配送できる物流体制を作り上げていったのです。

Amazon.comがベストプラクティスを持っている

Amazon Japanとして、最もありがたいのはお手本となるAmazon.comの存在です。日本で新しいサービスを導入する時には、すでに豊富なノウハウと数値があり、「ベストプラクティス」を導入することが可能です。当然、日本ならではの商習慣や顧客行動にあわせて調整はしますが、大きな改修はほとんどありません。

2003年当時のAmazon Japanは、まだ、本とCD、DVDだけを販売していました。本やCDは、形状もサイズもある程度定まっています。保管も比較的楽な商材です。しかし、家電やキッチン用品は、形状も大きさも、そして重さも千差万別なので、配送現場では「ハードライン」と呼ばれています。

Amazon Japanで、ハードラインの商品の販売計画が決まると、私たちはAmazon本社のフルフィルメントセンターへトレーニングに派遣されました。Amazon本社では、当時すでに商材ごとにフルフィルメントセンターを分け始めていて、私が派遣されたセンターは、ハードラインを集中的に配送するセンターでした。そこで、ハードラインの取り扱い方法やルールなどを1週間みっちりトレーニングされました。

Amazon.comではハードラインのPDCAを回していて、失敗体験も成功体験も豊富に持っていました。だからこそ、他国で新サービスを開始しても、大きなトラブルもお客様を失望させることもほとんどありません。お客様は、そのサービスを初めて使った瞬間から、素晴らしい「カスタマーエクスペリエンス」を体験することになり、Amazonを支持することになるのです。

全世界標準マネジメントの徹底

Amazonの哲学には、「Customer Oriented (顧客志向)」というスローガンがあります。顧客が何を求めているのか、何に不便を感じているのかを常に最優先に考えます。本社との会議の中で、「競合がこういったサービスを持っているから、うちもやるべきだ」と意見を述べると、「競合他社との比較は時間の無駄だ」と一蹴されます。

顧客が欲しているか、いないか?それが、全ての判断のポイントです。ジェフ・ベゾスは、以前、あるインタビューでこう話しています。「他社は顧客優先と言っても、結局ライバルを見て戦略を決めています。それは何も発明していないのと同じです。それでは先駆者とは言えません」

では、顧客を見て、競合他社を意識しない場合、意識する競争相手はどこにいるか?それはAmazonの場合は他国の同じ部署になります。

Amazonは世界中にたくさんのフルフィルメントセンターが存在しています。その中で、ベンチマークとして設定されているセンターが存在します。私がいた時は、ドイツのフルフィルメントセンターがベンチマークでした。そして自分達のセンターとベンチマークされているセンターとの差異を常に指標で比較されます。

顧客が求めることは全世界共通であるという信念があり、ある国で実現できている数値であれば、必ず全世界で実現することができるという考えです。

Amazonはワールドワイドで標準化を目指しています。国単位でなく、すべての国の同じ部署が競争の土俵に立っているわけです。数あるグローバル企業の中でも、Amazonほど徹底してグローバルに標準化されたマネジメントを遂行している企業はないでしょう。

イノベーションの裏側

Amazonは外から見たら、スピード重視でとにかく他社よりも一日でも早くサービスを開始し、先行者利益を取ってきたと思われています。しかしAmazonの本当の強さは自分たちのビジネスに対して、近視眼と遠視眼の両方を持ち合わせていることです。

今やAmazonの代表的なサービスとなった「お急ぎ便(当日配送)」、ローンチしたのは2006年です。しかし、Amazon社内でもあまり知られていませんが、実際は2003年からプロジェクトは進行していました。倉庫のオペレーションの生産性や労働時間のシミュレーションを3年近く行い、配達履行率のデータを取り続けていました。物流センター内でも、配送会社に当日配送できるためのカットオフタイム(荷物が配送会社に引き渡される最終締め切り時間)までに、当日配送を想定した注文の荷物をすべて配送会社に引き渡せるか、が入念に確認されました。そして、配達履行率が99.5%まで安定的に出せることが確認できたところで、ジェフ・ベゾスから、承認が下りたのです。

理論的に当日配送できるという机上の空論のレポートだけでは、ジェフの承認は下りなかったでしょう。ここが、まさにAmazonの一つの強みが現れています。

他の企業では、3年もの長い期間、ここまで周到な準備をして、徹底的にテストを重ねてからサービスを開始するところは、見たことがありません。目の前のこともしっかり見ながら、遠くを見据える姿勢はAmazonのあらゆる部署で目にすることができます。

物流センターはプロフィットセンターであるという信念

Amazonで私が学んだ一番重要なことは、物流センターはコストセンターではなく、プロフィットセンターだということです。それまで私が働いてきた物流部門は、コストセンターとして位置づけられていました。つまり、どれだけ品質のよい庫内作業をしても、結果の指標は「コスト」でした。品質がいいことは当然、どれだけ物流費を低減したかが重要でした。

それがAmazonでは、フルフィルメントセンターは、「コスト」が発生する場所ではなく、「利益」を生み出す重要なポジションに位置づけられていました。それを具現化したのが、FBA(Fulfillment by Amazon)です。

実は10年以上前から「Fulfillment by Amazon」というキーワードは社内で検討されていました。最初私はそれを聞いた時に、小売りの自社センターが競合他社の物流を請け負う可能性などあり得るのかと半信半疑でした。しかし、年を追うごとにITも進化し、その日初めて仕事をする作業員でも、初日から基準以上の生産性が出せるほど、センターのオペレーションは標準化されていきました。機械化も拡張し、低コストで何十万個という荷物を安定的に出荷できるようになっていきました。

そうなってくると、Amazonの自社荷物のオペレーションに、他社の注文品のオペレーションを載せるだけで、FBAは実現します。今にして思えば、単純な発想ですが、それができたのは、前述でも述べたように彼らの近視眼と遠視眼によるものでしょう。そして仮説を検証し、準備を用意周到に進めていく慎重さがあるからこそ、今の巨大なAmazonにまで成長したと私は思います。

著者プロフィール / 白川久美

複数外資系メーカー勤務後、アマゾン、楽天、ローソンで物流センターや新規サービスの立ち上げを経験し、2017年7月に物流・越境 ビジネスのコンサルティング会社を設立。

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